2023年の本

例年通り新刊本の振りかえりである。毎年、書き出しは色々と言い訳を書き連ねるのがならいであるが、2023年は公私ともに色々落ち着かず、読書への差し支えが顕著にあった。評判となった本で買いはしたが読めなかったという本も少なくない。諸般の状況を勘案…

2022年の本

年末に一年を振り返り、どんな新刊本を読み、何がおもしろかったかを投稿するだけとなって久しい本ブログだが、例年通りその投稿をする。 今年は少し読書の方法や時間の取り方が変わり、関心のある本をきちんと読む時間を比較的確保できた(とはいえ本リスト…

2021年の本

年末に今年の新刊本の振り返りをするのが個人的な恒例行事となって久しい。今年は多少自分なりに分野という脈絡をつけて扱うこととした。 ■外交史 外交史というより防衛・安全保障政策史というカテゴリがふさわしいが、まず取り上げたいのは真田尚剛『「大国…

2020年の本

過去のログを漁るとまるで言い訳の変遷がボージョレ・ヌーボーの評価のようであるが、本当に今年もろくに本を読まない一年であった。Twitterで報告したとおり、私事でも色々あり、世の中はコロナに見舞われた。在宅勤務が増える中で読書がはかどるかとも一瞬…

2019年の本

はてなブログ形式で初の投稿となった。毎年言い訳から始めるのも芸がないが、読書のはかどらない一年であった。この調子で新刊のとりまとめをするのもおぼつかない感じもするが、いくつかのカテゴリで実際に目を通し、印象に残った本を取り上げたい。 ■日本…

2018年の本

一年越しの更新となった。はてなダイアリーの終了が告知されたこともあり、恐らくこれがはてなダイアリーへの最後の投稿になると思われる。今年は昨年より状況が悪く、完読ではなくつまみ読み程度で終わった本が多かった(読書メーターの更新も滞っている)…

2017年の本

「今年も何か書こうと思っていたのだが…」と始めるのはもはや前口上以上の意味はない。昨年に比べて色々と忙しく、読み通せた冊数は昨年より減り、70冊程度だった。印象に残った本について、例年通りある程度のまとまりをもって整理したい。■外交史 外交史研…

2016年の本

あっという間にまた一年が終わる。今年は読書メーターを利用することでまともな読書記録をつけるようにしたのだが、どうも80冊弱本を読んでいたことがわかった。例年こうした記録をとっていないので明確な比較の基準がないが、新書の類をほとんど読んでいな…

シン・ゴジラ論のあとのシン・ゴジラ論

前口上 シン・ゴジラは映像の快感に満ち満ちた作品であった。何度となく繰り返される政治家や官僚たちの会議、自衛隊による整然としたゴジラへの攻撃、ゴジラを襲う無人在来線爆弾と高層ビル、そして鳥肌が立つほど美しいゴジラの熱線放射。どれもこれも素晴…

2015年の本

結局一本もエントリを書かないまま2015年の暮れを迎えたが、去年同様、読んだ本、買った本などの感想を並べて一年の締めとしたい。昨年は順不同、一冊ごとの紹介としたが、今回はある程度自分の関心分野をもとにまとめることとした。■政治外交史 今年は戦後…

2014年印象に残った本

もう2014年も大晦日か…という印象が否めないのだが、今年も色々な本を買った(読んだわけではない)。おもしろい本、くだらない本など色々とあったが、特にその中でも読み通し、かつ印象に残った本を並べてみた。こう見ると新書が多くなってしまったが、もう…

篤実な研究案内―『「大西洋の戦い」文献ガイド―通史的理解のための16冊』(RNVR花組)

本書は題名にあるとおり、第二次世界大戦中の「大西洋の戦い」を扱った書籍の文献ガイドであり、この分野における英語圏の最新研究状況を追った、貴重な研究案内となっている。 本書の特徴は、ただ漠然と関連書籍を並べて内容を説明した本ではなく、著者であ…

戦史研究の現在―大木毅『ルビコンを渡った男たち 大木毅戦史エッセイ集2』

数か月前、著者の戦史エッセイ集『明断と誤断』の紹介を掲載したが、同じくシミュレーションゲーム専門誌に掲載されたエッセイをまとめた第二弾が発表された。 目次は「戦史無駄ばなし」と題された五編を除くと、いずれも第二次世界大戦中の戦史を扱ったもの…

「黒子のバスケ」被告人意見陳述に端を発する雑感

「黒子のバスケ」脅迫事件の初公判で、被告人の読み上げた冒頭意見陳述全文(リンク1・リンク2)がインターネット上で評判になったが、これを読んでしばらくして、私は下記のようなツイートをした。某意見陳述、くりかえされる自己の行動へのツッコミ、いか…

戦史研究の手つき―大木毅『明断と誤断 大木毅戦史エッセイ集』

著者である大木毅氏はナチス政権期のドイツ外交史を専攻した研究者であり、「赤城毅」のペンネームで活躍中の作家でもある。また著者は学生の頃よりシミュレーションゲーム専門誌にドイツに関する戦史記事を寄稿し、歴史専門誌『歴史と人物』(中央公論社)…

われわれは今や全員が平和主義者である?―松元雅和『平和主義とは何か』(中公新書)

多くの違和感が残る本であった。本書が主題とする戦争と平和をどのように考えるのか、というテーマ自体が極めて大きい。しかし、それ以上に論じ方、論じられる内容に何とも言えないもどかしさと不満を覚えたからである。ともあれ、本書の議論を要約した上で…

取り壊し寸前・社会文化会館を訪問してきた

はじめに 以前、毎日新聞日曜版で連載され、単行本化された興味深い日本政治ものの企画として『権力の館を歩く』がある。近代以降、特に戦後の日本の政治権力のありか…官庁、有力政治家の私邸、政党本部などを、現地取材と御厨貴先生の洒脱な文章でつづった…

『ストライクウィッチーズ』における黒海の存在に関する中間報告

本来下位春吉と白虎隊記念碑をめぐるいざこざの後段を書くべきであろうし、またあるいはいただいたコメントに対してなんらかの返信を返すべきなのだが、それ以上に重要な、長らく懸念の事案について現状判明している内容を整理し、関係各位のご高覧に供し、…

山師、日伊関係を揺るがす―下位春吉と飯盛山ローマ市寄贈の碑(上)

緒言 長く外務省担当記者を務めた永野信利は、著書『外務省研究』において、対米外交の落とし穴の一つとして「自称知米派」のブローカーの存在を挙げている。この手の「議会要人とツーカー」「財界とパイプを持っている」などと自称する外交ブローカーが介在…

郷原・佐々木双方のある種の正しさ―孫崎享『戦後史の正体』を読む・補遺

『朝日新聞』9月30日書評欄「売れてる本」のコーナーにおいて、佐々木俊尚氏が孫崎享『戦後史の正体』を酷評した。それに孫崎氏が激怒し、さらに郷原信郎氏が孫崎氏よりのスタンスから佐々木評を批判する、というスパイラルが発生している。 そもそも「売れ…

底抜け海部俊樹

ちょっと前の話になるが、先々月の『開運!なんでも鑑定団 夏の2時間スペシャル』に海部俊樹元総理が登場していた。出演コーナーは有名人ご長寿鑑定大会で、持参したのはマイセンの女性像であった。 番組中で海部はマイセンを手に入れた経緯を話しているのだ…

自民党戦国史botの再建

Twitterで一年半ほど前につくり、その後思いつきで削除した「自民党戦国史bot」を復活させた。https://twitter.com/Jiminto_Sengokuあいも変わらず1950年くらいから90年前後までの政治家たちの言動を広い集めた拾遺集のようなbotとなっている。伊藤昌哉『自…

中川八洋先生の学位論文を捜せ

中川八洋先生といえば名にし負う学界の狂犬であり、筑波大学を定年でご退職された後も独自の保守主義をひっさげ、皇室論、民主党論、TPP論、原発論と元気いっぱいご活躍されている。90年代以降の中川先生の議論というのは色々と興味深いところもあり、反動を…

過剰に大きな星条旗―孫崎享『戦後史の正体』を読む

戦後史の正体 (「戦後再発見」双書1)作者: 孫崎享出版社/メーカー: 創元社発売日: 2012/07/24メディア: 単行本購入: 31人 クリック: 410回この商品を含むブログ (86件) を見る 感心できない本である。 著者が出版社から「高校生でも読めるような冷戦後の日米…